糖が多い飲料の飲みすぎで起こる「ペットボトル症候群」by山守育雄ペットボトル症候群とは、ポカリスウェット、アクエリアス、スポーツドリンク、ジュースや甘い炭酸飲料水など糖が含まれる飲料を多量に飲んだことで起こる病気
「ペットボトル症候群」という言葉をご存知でしょうか。:
一度聞いたら忘れないネーミングですが、内容を詳しく知っている人はあまり多くないでしょう。
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医者の処方箋なしには、ポカリスウェットやアクエリアスは買ってはいけない。 今日は疲れているからエナジードリンク、栄養ドリンクを飲もう、 と気軽に考えていると死に至るかもしれない。危険な飲み物である。 カフェイン中毒になる可能性がある。成分表を見よう。 |
熱中症対策として、水分・塩分補給には経口補水液やスポーツドリンクが手軽であるとお伝えしました。しかし、多量に摂取すればよいわけではなく、気を付けなければならないことがあります。それがペットボトル症候群なのです。
ペットボトル症候群とは、ポカリスウェット、アクエリアス、スポーツドリンク、ジュースや甘い炭酸飲料水など糖が含まれる飲料を多量に飲んだことで起こる病気で、正式名称は「ソフトドリンクケトーシス」といいます。1992年に聖マリアンナ医科大学の研究グループが報告し、命名されました。
症状としては、喉の渇き、尿量が多くなる、体重減少、倦怠感、イライラ感という兆候があります。それに加えて、目立った自覚症状もないのに、突然意識消失などを起こすこともあるのです。なぜ起きるのか、説明しましょう。
スポーツドリンク1本には20~30gの糖が含まれている:
甘い炭酸飲料水や清涼飲料水には一般的に500mlのペットボトルでおよそ30~50gの糖が含まれているとされ、スポーツドリンクでは20~30g以上、コーラでは50g以上ともなり、角砂糖に置き換えると約15個分にもなります(※各飲料の成分表示より換算)。熱中症対策によいとされる経口補水液でも10g前後の糖が含まれると言われます。経口補水液は先に挙げた飲料と比べると甘みをあまり感じませんから、ご存知ない方も多いのではないでしょうか。
体型にもよりますが、10%程度の糖分を含む清涼飲料水を、1日1.5L以上、また1カ月以上連続で飲むと、ペットボトル症候群のリスクが上がると言われています(全国清涼飲料連合会「健康のため、かしこく飲みましょう」)。
ペットボトル症候群がとても身近な疾病であることがお分かりいただけたでしょうか。
また、WHO(世界保健機関)では、糖の摂取量を1日の摂取カロリーの10%未満にするよう推奨しており、5%未満に保てば健康効果が増大すると発表しています(内閣府食品安全委員会 食品安全総合情報システム「世界保健機関(WHO)、ガイドライン「成人及び児童の糖類摂取量」を発表」)。糖の摂取量を1日の摂取カロリーの5%未満にした場合、砂糖にして約25gに相当すると言われています。清涼飲料水のペットボトル500ml1本を飲むことで、倍近くの糖を摂取することになってしまいますから、健康的な生活のためにはさらに気を付ける必要があると言えます。
甘いドリンクを飲むほど喉が渇くという悪循環:
ペットボトル症候群はどのようにして起きるのか。スポーツドリンクを例にして説明していきます。
喉が渇いたときにスポーツドリンクを多量に飲むと、スポーツドリンクに含まれる糖により血糖値が上昇します。実は、血糖値の上昇には喉の渇きを促進させる作用があり、そこで水代わりのようにスポーツドリンクを飲み続けると、さらに血糖値が上がり、喉が渇く、という悪循環を引き起こしてしまいます。
通常であれば、血糖値が上がると膵臓からインスリンが出て血糖値を下げていきます。インスリンには、食事などから摂取されたブトウ糖を細胞内に取り込み、エネルギーに変えるという働きがあり、そのため血糖値が下がるといった仕組みです。
しかしスポーツドリンクを飲み続けることで糖の摂取が止まらない場合、インスリンの働きが悪くなり、ブトウ糖からエネルギーを得られなくなります。
そうすると、ブドウ糖の代わりに身体に蓄えられていた脂肪がエネルギー源として使われることになり、ケトン体という物質が作られます。酸性の物質であるケトン体が大量に増えることで身体も酸性に傾いていきます。人の身体は酸性が強くなるとうまく機能できなくなってしまうため、これが意識障害を起こす原因となります。
10~30代に多く、糖尿病でなくても発症する:
また、これまでの研究によると、ペットボトル症候群は、一般的に10~30代の若い人が多く、糖尿病などの既往がなくとも発症することが特徴とされています。万一発症してしまった場合、発症の初期にはインスリンの治療が必要となります。改善とともに食事療法のみでコントロールできるようになることが多いですが、一部では内服での治療も必要になることがあります。
運送業や肉体労働者、外出が多い仕事の人は特に注意が必要です。ペットボトル症候群によって倦怠感を抱いているのに、熱中症と勘違いしてさらにスポーツドリンクを飲んで悪化させることもあります。
喉の渇きや倦怠感には脱水症以外にも糖尿病などの病気が潜んでいることもあるので、気になる症状がある場合には受診して検査を受けるようにしてください。
どうしても飲むときは3倍に薄めて飲むなどの工夫を:
ただし、ペットボトル症候群を怖がって水分補給を控えてしまっては本末転倒です。対策としては、お茶や水などの糖分を含まない飲み物を選んだり、清涼飲料水を飲む場合には3倍に薄めて飲んだり、ひと工夫してみることをお勧めします。
また、飲み物を買う際には成分表示を確認する癖をつけましょう。健康志向の人が増えたために、「糖質ゼロ」や「糖質控え目」などの表示がされている食品を多く見かけるようになりましたが、実際には全く糖が入っていないわけではありません。消費者庁より定められている栄養強調表示では「糖質ゼロ」は100mlあたり0.5g未満、「糖質控え目」は100mlあたり2.5g未満であれば表示してよいとされています(消費者庁「栄養強調表示等について」)。ペットボトル500mlに換算すると糖質オフでも最大2.5g、糖質控え目は最大12.5g糖分が含まれていることがあるのです。
「ペットボトル症候群」と聞くと、何だか重症ではないように感じてしまう方も多いのではないでしょうか。しかしこれは急性の糖尿病の状態であり、最悪の場合には死につながることもある病気なのです。
これからの時期、熱中症予防には水分摂取が大切ですが、ペットボトル症候群にも十分ご注意の上、暑さを乗り切っていただきたいと思います。
(山守育雄他「インスリン初期分泌の正常化をみた清涼飲料水ケトーシスの1例」「糖尿病」40巻8号)。
飲みすぎ危険!栄養ドリンクを常用してはいけない、知らないと怖すぎる理由。
薬学部教授が教える、薬を減らして健康に生きる方法:
薬には、いいところもあれば、悪いところもあります。
昭和薬科大学教授を務め、現在は日本薬科大学客員教授として薬に深く関わり続けているからこそ言える、薬との正しいつきあい方、薬を減らして元気に長生きする秘訣を紹介した千葉良子先生の著書、『薬学部教授だけが知っている 薬のいらない健康な生き方』から一部を抜粋し、再編集して紹介します。
真の健康を手に入れるには、生活習慣や考え方を変えることも欠かせません。薬漬け、化学物質漬けになることなく健康に生きるために役立つ知恵をご提案します。
栄養ドリンクの飲みすぎは、体を蝕む:
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千葉良子(ちば りょうこ)
秋田県生まれ。医学博士、薬剤師。日本薬科大学客員教授。日本アロマセラピー学会理事、秋田産業サポータークラブ幹事、同クラブ「食と美と健康ワーキンググループ」主査。1975年、昭和薬科大学薬学部卒業後、同大学分析化学研究室助手、臨床化学分析教育研究室准教授、同研究室教授を経て、2017年4月より現職。杏林大学医学部にて免疫学を学び、東邦大学医学部にて博士号を取得。専門はルテニウム錯体化学発光法を用いた体液中医薬品の高感度分析法の開発。ライフワークとして国産樹木精油の臨床応用に携わっている。 撮影:板山拓生
疲れているときや元気を出したいとき、つい栄養ドリンクに頼ってしまうという人が少なくないようです。
たまに飲む程度ならべつだん問題はないと思いますが、毎日欠かさず飲んでいるとか常用に近い状態の方にはぜひ知っておいていただきたいことがあります。
それは栄養ドリンクの成分についてです。
成分表を見ればわかるように、栄養ドリンクは化学物質でできています。すべてといっていいくらい、化合物の寄せ集めなのです。私たちは化学物質を口に入れることにもっと神経質になるべきだと思います。
なかでも気になるのが糖分です。
たいていの栄養ドリンクには糖分が含まれていますが、これがけっこうな量なのです。商品名を出すことは差し控えますが、100円前後で買える人気の栄養ドリンクを例にとらせてもらいます。
125ccのこの栄養ドリンクの原材料名には「糖質(砂糖、ブドウ糖果糖液糖)」とあり、成分表には「炭水化物19g」とありますから、糖質=19gと考えていいでしょう。
厚生労働省は、消化性炭水化物の一日の最低必要量を100gと推定しています。125ccの栄養ドリンク1本で、一日の必要量の5分の1近くが摂れてしまうというのはいかがなものでしょう。
たしかに疲れているときは血糖値も低くなりがちですし、糖分がほしくなるものです。
でも、そんなときは栄養ドリンクよりもチョコレートがおすすめです。
カカオの成分であるエピカテキンがマウスの運動能力を向上させたという研究結果が海外で報告されている他、カカオに含まれるポリフェノールの抗酸化作用などで疲労回復すると考えられています。
また、カフェインも気になります。
先にお話しした栄養ドリンクにはカフェインは含まれていませんが、同じく人気を誇る100ccの栄養ドリンクを例にとりましょう。
こちらには1本中50mgの無水カフェインが含まれています。無水カフェインとはコーヒーなどから人工的に成分を抽出し、水分子を取り除いて結晶化したものです。コーヒーなどに含まれているカフェインと同等の作用があると考えていいでしょう。
カフェイン50mgという分量は、インスタントコーヒーで65mg、紅茶や煎茶で30mg程度ですから、けっこうな分量といってもいいでしょう(含有量はいずれも150mlにつき)。
カフェインを過剰に摂取すると体に悪い影響が出るのはよく知られていることです。急性中毒の症状としては心拍数の増加、不整脈、嘔吐など、慢性中毒の症状としては睡眠障害、頻脈、頻尿などがあります。
もちろん、1本2本飲んだくらいで体調がおかしくなることは基本的にあり得ませんが、栄養ドリンクを飲むとき、「糖分やカフェインをけっこう摂っているな」と意識することはあまりないのではないでしょうか。
この“無意識の摂取”ゆえ、気がつかないうちに飲む量が増えがちなのも栄養ドリンクの危ないところです。
ちなみにアメリカでは、2017年4月、栄養ドリンク「モンスター・エナジー」に含まれるカフェインが原因で14歳の娘が死亡したと遺族らが訴えを起こしています。
米メリーランド(Maryland )州で19日、栄養ドリンク「モンスター・エナジー(Monster Energy)」に含まれる多量のカフェインが原因で娘(14)が死亡したとし、遺族らが製造会社を相手取って訴えを起こした。
原告の代理人によると2011年12月、アナイス・フルニエ(Anais Fournier)さんは死亡するまでの24時間に700ミリリットル入りのモンスターエナジーを2本摂取しており、これに含まれるカフェインの量は480ミリグラムだったという。缶入りコカコーラ(350ミリリットル)14缶分のカフェイン量に相当する。また検視結果では、死亡の原因は「カフェインの毒性による心臓の不整脈」とされた。
少女の母親は代理人を通じ、「私はただ、モンスターエナジーの製品が人を殺す可能性があることを知ってもらいたいだけ」と述べている。
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