今、脱炭素化の流れから、世界中で電気自動車の普及(EV化)が急速に進みつつあります。
大きな市場転換の中で注目を集める技術が「全固体電池」です。
全固体電池は、従来のリチウムイオン電池で使用している可燃性液体電解質を、固体電解質に変えた電池のことです。
電解質が固体に変わることで、液体では扱えなかった電極材を使えるようになり、充電できるエネルギー密度を上げることができるようになると言われています。
この全固体電池が、ガソリンに代わるエネルギーとして世界中の企業で注目され、関連分野の研究開発が進められています。
全固体電池関連の特許ランキング
それでは、全固体電池関連の特許はどの企業が多く出願しているのでしょうか?
2000年〜2018年の間の電池技術に関する特許出願件数の企業ランキングは以下の結果となっています。
1位こそ韓国企業のサムスンですが、トップ10に現在は日本の企業が7つも入っており、非常に高い割合を占めています。
さらに、肝心の全固体電池の特許においては、現在は全体の37%もの特許を日本企業が有しており、現在は日本の全固体電池の特許数は世界から一歩リードしている状況です。
電気自動車産業は今後さらに盛り上がりを見せていく業界なので、特許の視点からも要注目していきたいですね。
脱炭素時代において超重要な技術の一つが蓄電池だ。電気自動車(EV)ではすでに蓄電池の争奪戦が始まっており、どう抑えるかが必須の論点になっている。その中でも次世代の電池として注目され、開発競争が激化しているのが全固体電池だ。リチウムイオンが移動して電気を流す「電解質」に液体ではなく、固体の材料を使う全固体電池は航続距離や電池の寿命を延ばす上、充電時間の短縮や電池を燃えにくくするといった特性を持つ。その一種である「全固体リチウム硫黄電池」について、産業技術総合研究所(産総研)があるブレークスルーを果たした。実用化に向け大きく前進するのか、ゆーだいこと前田雄大が全固体リチウム硫黄電池について、その全貌を解説する。
なぜ全固体電池が注目されるのか?
いま、一般的に使用されているバッテリーは、可燃性の有機電解液を用いるリチウムイオン電池が全盛となっている。一方、なぜ全固体電池が注目をされるかというと、発火リスクが軽減されるため安全性を飛躍的に改善できるという特性があるからだ。
全固体電池は、電池の正極と負極の間にあり、リチウムイオンが移動して電気を流す「電解質」に液体ではなく、難燃性、つまり燃えにくい無機の固体電解質粒子を用いる。また、電池内で直列に積み重ねる直列積層が容易なため、高電圧化によってパッケージとしてエネルギー密度の改善も期待されている。
つまり、全固体電池が実用化されれば、安全性は高いのに、電池の性能が上がるわけだから、それは期待されるよな、となるわけである。
少しマニアックな話になるが、この全固体電池、特に酸化物系固体電解質材料は硫化物系固体電解質材料と異なり、水と結合して有毒な硫化水素が発生する危険性がなく、より安全な電池を実現できるとされており、研究が進んでいる。
そうした中、全固体リチウムイオン電池の一種類であり、性能をさらに高める電池と期待されている、「全固体リチウム硫黄電池」の開発が日本で進んでいる。この全固体リチウム硫黄電池の開発において、2021年11月20日、産総研があるブレークスルーを果たしたと発表した。
全固体電池の実用化に向けて大きく前進するのか。今回はEV性能を飛躍的に向上させると期待される全固体リチウムイオン電池の課題を解説した上で、次の3つの論点から将来像を展望したい。
EV性能を飛躍的に向上させる全固体電池の課題とは
次世代電池の有力候補として全固体リチウムイオン電池の注目度は日ましに上がってきている。トヨタ自動車も開発を進めており、日産自動車も11月29日の戦略発表の中で全固体電池の将来活用について、言及した。海外勢もフォルクスワーゲン(VW)をはじめ多くの企業が全固体電池を将来搭載することを前提に動いている。
この全固体電池、構造をしめすと次のようになる。
複合正極層/隔離層/複合負極層の3層から成っており、リチウムイオンが正・負極内および隔離層内の固体電解質粒子を介して複合正・負極間を移動することで充放電する仕組みになっている。
全固体リチウムイオン電池は、上の図の吹き出しに示すように、リチウムイオンが粒子接点を介して移動するので、活物質粒子-固体電解質粒子間の接点、固体電解質粒子間の接点形成、これらがエネルギー密度に大きく影響する形となっている。
要は粒子の接点が多ければ多いほど、そこをチャネルにイオンが移動するので、粒子の接点を多く作ることができれば、EV性能を飛躍的に向上させることができるわけだ。
となると、「接点をいっぱい作ったらええやん」という話になるのだが、ここに課題がある。
一般的にいま検討が進んでいる酸化物系固体電解質粒子は硬くて、また、結晶構造が壊れると大幅に特性が低下してしまう。
一方で固体の粒子の接点を多く作るためにはどうしたらいいかというと、ボールミル、簡単にいうと強く粉砕する機械などを用いて金属素粉末や合金粉末をミリング、つまり強撹拌し、メカニカルミリングと呼ばれる粉末に対して超強加工を施す手法などの機械的なエネルギーを利用した粒子間の接触形成の手法が必要になってくる。
ただ、先述したように、いま検討されている酸化物系固体電解質粒子は硬く、結晶構造が壊れると特性が低下することから、このメカニカルミリングなどが利用できないという欠点がある。そのため、十分な反応点およびリチウムイオン伝導経路を確保することが難しい格好となっていた。
例えばこの課題を乗り越えるための一つの手法として、加熱などがある。だが、加熱をするのは効率も悪く、動作環境も選ぶ格好になるので、課題解決には至っていなかった。
以前、解説したトヨタの蓄電池でも、トヨタが全固体電池について、エネルギー密度に課題があるので、まずは段階的に使っていく、という発表をしたことに触れたが、まさにそれはこうした課題によるところだ。
そこで、一つ注目をされているのが、全固体リチウム硫黄電池だ。では、全固体リチウム硫黄電池とはどんなものなのか。解説しよう。
全固体リチウムイオン電池の課題を解消する、全固体リチウム硫黄電池とは
簡単に言うと、複合正極層中の活物質に高エネルギー密度正極活物質である硫黄を用いたのが全固体リチウム硫黄電池である。
いま、サラッと硫黄が高エネルギー密度の活物質だとしたが、正極で使うと、硫黄は1,675mAh/gもの高い理論容量をもつとされている。リチウムイオン電池正極のコバルト酸リチウムが137mAh/gとされているので、如何に優れているかがわかるだろう。その上、硫黄は低コストで資源的に豊富であるという利点もある。
つまり、硫黄を用いた全固体リチウム硫黄電池は、現行リチウムイオン電池と比べ、大幅にエネルギー密度を向上できる可能性があるわけだ。先ほど述べたように全固体リチウムイオン電池がエネルギー密度に課題があるとされていたことから、全固体リチウム硫黄電池に期待が高まっている。
一方で、もちろん、課題がないわけではない。
全固体リチウム硫黄電池の実現に向けた課題として2つが知られている。
1つ目は、正極・負極の活物質の組み合わせである。正極活物質に硫黄単体を用いた場合、負極となるリチウム金属は充放電サイクル時のデンドライト成長による短絡の可能性が高いとされている。デンドライト成長とは充放電を繰り返すことで負極上に針状のリチウム金属が成長する現象のことで、成長が進むとこれが隔離層を貫通し、正極-負極間でリチウム金属がつながってしまって、短絡、つまりショートしてしまう。これは事故の原因になる。
また、これに加えて電池製造時の取り扱いが困難であるなどの課題があった。
そこで注目を集めているのが、リチウム金属を用いない系として、正・負極活物質にそれぞれリチウム硫黄(Li2S)とケイ素(Si)を用いた系の電池だ。これらに関しては、後程詳しく解説するが、ポイントは正・負極活物質をリチウム硫黄とケイ素にそれぞれ置き換えるということが課題の一つを解決するということだ。
そして課題の2つ目が、正・負極内および隔離層に使用される固体電解質材料である。
一般的に固体電解質材料には、このリチウム硫黄電池では硫化物系固体電解質材料が検討されているが、空気中で不安定であり、分解して硫化水素ガスを発生するため、より安全な酸化物系固体電解質材料への置き換えが望まれている。しかしながら、高容量活物質であるリチウム硫黄やケイ素は反応性が低いため、室温で酸化物系固体電解質材料を用いて実用的な充放電をすることは困難であった。
従って、全固体リチウム硫黄電池の実現に向けて、正・負極内の構造を抜本的に改善することが望まれてきたという経緯がある。
その取組みをずっとしてきたのが産総研である。では、産総研が果たしたブレークスルーとは如何なるものなのか。解説していこう。
産総研が果たしたブレークスルーとは
産総研は、高エネルギー密度電池の創出を目指し、全固体リチウム硫黄電池を研究してきた。特に最近では、先述したメカニカルミリング手法を活用した固体電解質材料の合成および正・負極合材の開発、これらに重点をおいて研究開発を行ってきた。
その中で、先ほど課題1の解決方法としてあげたリチウム金属を用いない系として、正・負極活物質をそれぞれリチウム硫黄とケイ素に置き換え、研究をしてきたわけだ。より正確には、これらの物質に固体電解質材料を複合化した全固体リチウム硫黄電池用の電極の研究を行ってきた、となる。
そうした中、酸化物系固体電解質が酸化物系であるにも関わらず、高い変形性と比較的高いイオン伝導性を示すことを見出し、この材料と複合化したリチウム硫黄複合正極およびケイ素複合負極を組み合わせた全固体リチウム硫黄電池のフルセル試験にて、45℃で比較的高いエネルギー密度が得られることを報告していた。
ここについては、さきほど全固体リチウムイオン電池の課題としてあげたように、一般的に酸化物系固体電解質粒子は硬いため、良好な粒子間接触が得られず、高いエネルギー密度を得ることは難しいと考えられていたが、酸化物系固体電解質材料を用いた全固体リチウム硫黄電池であっても次世代電池の有力候補となり得ることを示した格好になる。
そして、これらの成果を応用し、実際の電池の使用条件を考慮した室温での作動を目標として、さらなる特性の向上に取り組んでおり、それがこの図となる。
産総研における酸化物系全固体リチウム硫黄電池研究
ここからが今回のブレークスルーの内容になる。
先ほど、リチウム硫黄とケイ素を正・負極活物質に置き換える、と解説したが、実は、高容量電極活物質であるリチウム硫黄とケイ素は従来材料と異なり、結晶構造が壊れても充放電特性の低下がないことから、遊星ボールミルを用いたメカニカルミリングで微細化することで電池特性を向上できることで知られている。
つまり、接点を増やせるわけだ。
さらに、一般的な硬い酸化物系固体電解質材料をメカニカルミリングにより合成させる、高変形性酸化物系固体電解質材料に置き換えることで、粒子間接点を大幅に増やすこともできるという。接点、増えまくりだ。
高変形性固体電解質材料による粒子間接触の改善イメージ図
そして、最近、高変形性の酸化物系固体電解質のイオン伝導率が改善されてきており、酸化リチウム(Li2O)とヨウ化リチウム(LiI)が複合化した材料のLi2O-LiI(酸化リチウム-ヨウ化リチウム)ガラスは比較的高いイオン伝導率を示すことで知られている。
今回、このLi2O-LiIガラスの原料(Li2O(酸化リチウム)およびLiI(ヨウ化リチウム) )と電極活物質(正極ではLi2S(リチウム硫黄)、負極ではSi(ケイ素))およびカーボンなどの導電材を混合して、一括してメカニカルミリング処理を行うことで電極内固体電解質材料合成と電極合材の複合化を同時に行う方法を産総研は考案する。
これによって、室温で作動する全固体リチウム硫黄電池用のリチウム硫黄正極およびケイ素負極合材の開発に至った。
この技術によってなにが起きるか。
電極合材の製造工程を大幅に短縮しつつ、活物質粒子-固体電解質粒子間および固体電解質粒子間の接点を大幅に改善した正極および負極合材を得ることができたという。
本技術による酸化物系固体電解質材料を用いた電極合材および電極形成概略図
さらに、従来の硬い酸化物系固体電解を用いた電極合材の焼結による電極形成とは異なり、今回の新技術によって得られた電極合材は常温プレスのみで高性能な電極を形成可能であり、生産性も大幅に改善できるとしてきた。
また、この正極と負極を組み合わせた25℃におけるフルセル試験にて、充放電特性を得ることができた。換算すると、25℃で面積容量4.0mAh/cm2、エネルギー密度283Wh/kg(正・負極重量基準)となり、これまで報告されている電極に酸化物系固体電解質材料を用いた全固体リチウムイオン電池と比較して大幅に向上させることができたという。室温におけるエネルギー密度283Wh/kgは、現行の液系リチウムイオン電池とも比肩し得る値であり、産総研では、安全性の高い全固体リチウム硫黄電池の実現可能性を示すことができたとしている。
酸化物系全固体電池のフルセルのエネルギー密度(正極+負極重量基準)
つまり、全固体電池の課題とされた密度、これをこの全固体リチウム硫黄電池は乗り越えてきた、ということになる。もちろん、性能アップはもっといけるだろう。そこで最後に今後の展望を占ってみたい。
気になる今後の展開とは
産総研は、今後は高変形性酸化物系固体電解質材料の充放電サイクル安定性およびイオン伝導率の改善と、活物質比率を現行の30%から50%に増加できる電極合材の複合化法を検討し、エネルギー密度の向上を図るとしている。理論上はもっといけるはず、というわけだから、その理論値に近づくところまで性能を上げていくということだ。これが実現できれば、現行の液系リチウムイオン電池すら性能で超えていくかもしれない。全固体なのに。
また、今回のフルセル試験の隔離層には硫化物系固体電解質材料(Li3PS4-LiI )を用いているが、これを酸化物系固体電解質材料に置き換えるため、酸化物系固体電解質材料のイオン伝導率改善および薄膜化も検討するとのこと。特に、酸化物系固体電解質材料を用いた隔離層では、その薄膜化が重要となる。
正・負極を組み合わせたフルセル試験構成およびその25℃充放電特性
今後は、こうした課題で連携できる産業界のパートナーを探し、研究加速することで、全固体リチウム硫黄電池の早期実現を目指したい、というのが産総研の考えだ。
本当に、これは、世界で勝負できる技術だと思う。パートナー企業も早く名乗り出てきてほしい。これを軸に、日本の車産業にこの全固体リチウム硫黄電池を入れていく、そういう流れが起こってもいいのではないか。
もうオールジャパンで行くべきときだ。こうしたところから連携が生まれることを願ってやまない。
今日はこの一言でまとめたいと思う。
『全固体リチウム硫黄電池には夢がある』
全固体リチウム硫黄電池が自動車業界を救うか2021/12/05
日本政府は経済安保という観点での産業スパイ防止などの技術流出対策と、
日本企業への技術開発への手厚い予算、支援の迅速な実装をしてほしい。
今起こりつつある様々な分野の脱炭素でのブレイクスルーに乗り遅れたら、日本は取り返しつかないと思う。
トヨタや日産も中国で研究開発してるみたいだ。日産の全固体電池は充電時間3分の1になるとか。今のEVは満タンに30分以上かかるからね、期待したいです。
テスラが開発した4680電池が他社メーカー(有名になった中国格安EVメーカーもこの電池に注目しているそうです)にも早く普及するのを望みます。(超低コスト、大容量、剛性高い、トラックやショベルやトラクターや有人ドローンなど出力が大きい機械にも応用できるらしいです)
前回、電気自動車(BEV)で主流となっている液系リチウムイオン電池(LIB)の課題と自動車メーカーの戦略を整理し、2030年代にBEVが主流にならないと見通した。一方で限界を打破するために「ポスト液系LIB」の研究開発が盛んだ。今回は「革新電池」の可能性について解説し、BEVが電動車の主役に立つ可能性を論じる。
革新電池とは何か。明確な定義はないが、液系LIBの性能(質量エネルギー密度など)や安全性、耐久性を大幅に向上できる2次電池といえる。
全固体電池、3種類が競う
有力候補としてまず挙げられるのが、正極、電解質、負極の全てを固体で構成する全固体電池である。電解液をなくせるため、セルごとのケースが要らない。一つひとつの電池を直接積層(バイポーラ化)できるため、体積および質量エネルギー密度を高くできる。前回、トヨタと豊田自動織機が苦労して開発した液系ニッケル水素(Ni-MH)電池のバイポーラ化を紹介したが、全固体電池ならば簡単にできてしまう。
もちろん液漏れはなく、安全性を向上できる。温度特性にも優れる。セ氏-30度の極低温でも液系LIBと異なり凍結しない。液系電池の場合、性能劣化するセ氏60度以上にならないように冷やさなければならないが、全固体電池では必要がない。高電圧化による急速充電耐性もある。加えて長寿命であると期待されており、世界中で研究が進んでいる。
研究のポイントは多岐にわたる。高いLiイオン伝導度を示す固体電解質の材料構造を探すことや、充放電時に負極活物質が膨張・収縮することへの耐性を高めること、両電極と固体電解質の界面耐性を高めること、負極からのリチウム析出による短絡(デンドライト:樹枝状析出)を抑えることなどである。
自動車用の全固体電池は、正極、電解質、負極の複数の微粒子を積層したバルク型である。容量を大きくし、出力を高められるからだ。
一方、民生用に既に量産されているのが小型の薄膜型全固体電池である。集電体や負極、電解質、正極、集電体を基板上にCVD(Chemical Vapor Deposition)法やスパッタ法などの真空気相法により薄膜を堆積させて造るものだ。これらの製造法ではそれぞれの界面や粒子間の密着性が良く、界面の剥離がないために容量劣化が小さい。もっとも、電極が薄いために容量は小さくなる。
バルク型全固体電池の実用化に向けて、主に研究されている固体電解質材料は硫化物系、酸化物系、ポリマー(高分子)系の3種類である。固体電解質は、常温で高いLiイオン伝導度を有することが重要である。
全固体電池セルの基本構造は、正極と負極それぞれの活物質の粉体と固体電解質の粉体を混ぜて固めたものだ。両電極層で固体電解質だけの層を挟んでプレスすることでセルとなる。
活物質の周囲に固体電解質の微粒子を密着させることでLiイオンの伝導経路を形成し、固体電解質層を介して両電極間にLiイオンのパスができる。
性能向上のポイントは、活物質である微粒子と固体電解質間の接触(粒界)抵抗をいかに低減、保持するかが重要である。全固体電池に限らないが、基本的に充電時は負極の活物質の微粒子に正極からのLiイオンが入り込み膨張し、放電時にはLiイオンが放出されて収縮する。この膨張収縮の動きに負極が追従しないと負極内の活物質と固体電解質が界面に隙間ができてしまい、粒界抵抗が増えて性能が低下する。
加えて、両電極内では高い電子伝導性も付与しなければならない。3種類の固体電解質の特徴や、日系自動車メーカーを中心とした取り組みについて解説していこう。
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2021/09/08
現時点で最強2022NBOX 乗り換えする? 見送り? #NBOX #HONDA電動化 #EVシフト
ドイツにおけるEフューエルとPower-to-Xをめぐる最新動向
2019年7月17日 公開
国・地域: ドイツ, 欧州・ロシア
タグ: エネルギー, 燃料・資源
ドイツでこのところ、「Eフューエル(E-Fuels)」と呼ばれる合成燃料をめぐる動きが活発化している。“E“は、ドイツ語の「Erneuerbarer Strom=再生可能エネルギーで発電した電気」の頭文字である。Eフューエルは通常、再生可能エネルギーで発電した電力、水素、そして二酸化炭素(CO2)を使って製造されるためである。
ここでもう一つ、“Power-to-X”と言うコンセプトにも簡単に触れておく。ドイツエネルギー機関(dena)の解説によると、同コンセプトは、
Power-to-Gas(水素及び合成メタン)
Power-to-Liquid(合成ディーゼル、合成ガソリン、合成ケロシン)
Power to Chemicals(メタノール、プロピレン、アンモニアなどの化学物質)
を包括する概念である。Power-to-Xテクノロジーでは、まず、再生可能エネルギーで発電した電力を使って水を電気分解して水素を取り出す。こうして得られた水素は、直接利用したり貯蔵したりすることも可能であるが、これにCO2や窒素(N2)などのガスを投入することによって、さらに加工することもできる。Eフューエルは、このPower-to-Xテクノロジーを使って製造された燃料全般のことである。
Eフューエルの長所と短所
現在、ドイツではEフューエルのポテンシャルについては賛否両論がある(環境保護団体や緑の党は反対派)。最大の課題はコストである。エネルギー変換効率の低さ(以下の注を参照)、製造プロセスの複雑さに加え、ただでさえ電力価格が高いドイツでは、Eフューエルの価格はまだかなり高い。
注:Agora Verkehrswende(交通システムの転換に取り組むためのドイツのシンクタンク、ウェブサイト:https://www.agora-verkehrswende.de/en/)がまとめた2017年の研究報告結果によると、100km走行に必要な電力消費量は、純粋な電気自動車(EV)では15kWh、また水素自動車では31kWhであるのに対し、Eフューエルを動力源とするディーゼル車やガソリン車では103kWhにも及ぶ。
一方、同燃料の長所としては、まず貯蔵が可能であり、輸送コストが安いことが挙げられる。また、EVの普及には、車両の買い替えのみならず、充電ポイントの設置が不可欠であるのに対して、Eフューエルでは車両、ガソリンスタンド、タンクローリーといった既存のハードをそのまま継続使用することができる。さらに、特にドイツ自動車産業界にとっては、同燃料によって内燃機関自動車が化石燃料に依存しなくて済むようになれば、「テクノロジー面での現在の優勢」を今後も保持することができるかもしれないと言う意味で、これは金の卵と言えよう。
連邦政府は慎重な構え
いずれにせよ、現在、ドイツ国内ではまだ、Eフューエルの量産体制は整っておらず、これを実際に自動車に充填することはできない。そして、連邦政府による交通部門を対象とした気候保全政策の焦点はエレクトロモビリティに置かれており、Eフューエルはこれまで、あくまでも下位のテーマであった。現在も、政府は同燃料に対する慎重な構えを崩してはいないが、最近、以下のような動きも確認されている。
ドイツの『シュピーゲル(Spiegel)』誌(2019年6月24日付け)は、連邦議会内のキリスト教民主同盟(CDU)・.同社会同盟(CSU)会派が、Eフューエルを推す内容のポジションペーパーをまとめたことを報じている。
連邦環境省(BMU)は2019年7月10日、「BMU行動計画PtX „Power-to-X“」を発表した。原文(ドイツ語、5ページ)は以下のURLで閲覧可能である。
https://www.bmu.de/fileadmin/Daten_BMU/Download_PDF/Klimaschutzinitiative/iki_aktionsprogramm_ptx_bf.pdf
産業界の動向
また、2019年7月14日付けの独『ハンデルスブラット(Handelsblatt)』紙は、このところEフューエルを支持する声が高まっており、特に自動車やエネルギー業界が同燃料の開発に力を入れ始めていると報じている。同紙が挙げている、新規Power-to-X関連プロジェクトの例は以下の通り。
BPと電力会社Uniperが、Power-to-Xコンプレックスを伴うプロジェクトを推進中。
Shellはこの6月末、ドイツ・ラインランド州における電気分解用施設に着工した。
Lufthansaは、シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州にある精製会社Heide社と共同で、CO2ニュートラルのケロシンの実証プロジェクトを実施中。
複数のエネルギー供給事業者と石油会社、そしてAudiで構成されているアライアンスがこの4月、2025年までにEフューエルを市場投入する計画を策定した。
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バッテリーEV以外の選択肢
池田直渡「週刊モータージャーナル」
2021ー3月
合成燃料の未来
水素以外の補完系エネルギーといえば合成燃料である。合成燃料には大きくわけて2つある。バイオ系と化学系だ。バイオ系は一時期トウモロコシから作ることで話題になった。これらの人間の食物と競合するバイオ燃料を第一世代という。途上国で食糧危機が起きて子どもたちが餓死していく中で、先進国が金にものをいわせて、食料を燃料化するのは怪しからんと問題になった。
そこで第2世代では、人間の食物と被らない原材料を使うことになった。日本の場合、主力は藻類である。藻類を遺伝子技術を用いて改良し、燃料として質の良い炭素連鎖構造を持つ油を製造することに成功したのは日本のユーグレナ社だ。ユーグレナでは、バイオジェット・ディーゼル燃料の生産の実証実験プラントを稼働させていたが、ついに2020年1月30日にバイオジェット燃料の製造技術の国際規格である「ASTM D7566規格」を取得した。
ユーグレナは、原料に微細藻類ユーグレナ由来の油脂と使用済み食用油等を使用してバイオジェット燃料を開発した(ユーグレナ)
重量当たりエネルギーが極めて重要な航空機において、少なくとも現状ではバッテリーは相性的に難しい。もちろんバイオ燃料も現時点では高コストという問題をはらんでいるが、そこが改善されれば、一方で、既存のエンジンをそのまま使える。つまり機体も含めた機材が、そのまま、あるいは小改修程度で使うことができる。
ということで、藻を使ったバイオ燃料は航空業界のカーボンニュートラルへの大きな一歩となる可能性がある。当然それは航空機のみならず、内燃機関全般に使える。世界の先進国にとっては、産業構造を大転換しなくても既存のエンジン技術を生かしてカーボンニュートラル化への道が開けるという都合の良い技術なのである。
さて、さてもうひとつ挙げた化学系には、アンモニア系と水素系の2つがある。どちらも常温で保存、輸送が可能な液体燃料で、高圧水素よりハンドリングが容易だ。ただし、アンモニアには毒性があるので一般市販用の燃料としては向かないが、例えば火力発電所の置き換え燃料としては、有用な手段である。経産省のカーボンニュートラル計画では、石炭・石油系火力発電所のアンモニア燃料への置き換え計画は重要な柱の一つとなっている。
水素系は、最近よく耳にする「e-fuel」のことを指している。大気中に存在する二酸化炭素を水素に化合させて液体化したもので、もちろんこの二酸化炭素は燃焼時に放出されるのだが、そもそも製造時に大気から取り入れたもので、差し引きはゼロである。
現在世界中の伝統的自動車メーカーのほとんどが、バイオ系または化学系の合成燃料の開発に取り組んでおり、これらは後々、モビリティの中で一定の割合を占める可能性が高いと思われる。なぜならば、コストの問題さえ解決すれば、旧来の石油系の供給インフラと整合性が高く、給油毎の航続距離も石油系燃料に近いからだ。ユーザーにとっては日常の利便性においてデメリットがほぼ発生しない。
福島にオープンした世界最大級の水素製造拠点
さてその水素の製造はどの程度進んでいるのだろうか? 日本で水素といえば岩谷産業とトヨタだろう。あるいはこれに東芝を加えるべきかもしれない。それ以外にも多数の会社が、水素の製造、輸送、利用の各段階で実証実験を行っている(記事参照)。
すでに過去に何度か書いている通り、横浜・川崎地区では、風力発電の電力によって水を電気分解して水素を作るハマウイングが稼働中で、ここで作られた水素は京浜地区のいくつかの工場でFC(燃料電池)フォークリフトの燃料として使われている。
さらに福島県浪江町には、20年3月、世界最大級の水素製造拠点がオープンした。事業主体は経産省傘下の国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)となる。「福島水素エネルギー研究フィールド(通称:FH2R)」と名付けられたこの大規模な太陽光発電システムの能力は最大で20MW、これに10MWの水素製造装置を組み合わせたものだ。つまりピーク発電量の半分を、水素に変換して貯蔵できる。先に述べた「しわ取り」を蓄電池なしで実現したシステムである。
まずは再エネによる水素製造を実現する段階はクリアしたといえる。次に目指すのは、水素の利用方法のバリエーションだ。もちろん水素で発電し、インフラ電力の不足時に支えることはもちろんだが、それ以外に多様な水素の利用法を模索するステージが始まっている
バッテリーEV以外の選択肢
トヨタ自動車の豊田章男社長は、3月5日にこの施設を訪れ、水素の利用に対して連携していく方針を述べた。
トヨタとしては今後人口30万都市における最適な水素利用の方法を模索していく考えで、第2世代になった燃料電池車のMIRAIと、その燃料電池スタックを利用したさまざまな汎用発電機を外販し、30万人都市のインフラをモジュールにしたパッケージ化していく考えだ。
この30万都市というのは日本全国の自治体で最も多い、あるいは典型的な形であり、30万都市での利用方法が確立すれば、このFH2Rを軸に再エネ・水素変換システムと地方都市のパッケージ構造がユニット化されることになり、水素社会の青写真がさらに一歩進むことになる。
さて、EV以外の代替エネルギーの可能性、みなさんはどう考えるだろうか?
EVは本当に最適か?② ガソリン車はなくなるのか 次世代燃料「e-fuel」とは
2021年5月
日本の自動車産業にとって、EVは最適な手段なのであろうか。第2回では、次世代燃料「e-fuel」について紹介するとともに、それが将来のHEV(ハイブリッド車)とBEV(外部充電式電気自動車)の販売シェアに及ぼす影響などについて考察する。
次世代燃料として期待されている「e-fuel」とは
「e-fuel」とは、水を電気分解したH2(水素)とCO2(二酸化炭素)を触媒反応で合成した液体燃料のことである。製造時にCO2を吸収するため、再生可能エネルギーを利用すれば、CO2排出と吸収を同じにする「カーボンニュートラル」を実現可能にする。
ガソリン燃料やディーゼル燃料に混合して使用可能であり、HEV(ハイブリッド車)を含むエンジン搭載車の走行中CO2排出量を減らし、カーボンニュートラルに近づけることができる。
日本と同じく火力発電比率が高いドイツのアウディが研究で先行しており、トヨタ、日産、ホンダ等の日本メーカーも現在追随している。〈*3〉
高度なエンジン技術を売りにしている日独のメーカーにとって、e-fuelはエンジン車生産の存続のための一筋の光明とも言える。
「e-fuel」のメリットとデメリット
e-fuelの最大のメリットは、自動車によるCO2排出抑制はもちろんだが、それ以上に自動車用内燃機関や変速機が存続することになるため、既存産業の存続につながることだ。日本の一大産業を守りながら、世界で覇権を握る技術になりうるのである。
一方のデメリットは、普及に向けコスト面で課題があること、製造時に再生可能エネルギーを使わなければカーボンプラスになるという点が挙げられる。
「e-fuel」とEVの比較
製造過程を考慮すると、再生可能エネルギーを使わなければ、カーボンプラスになるのはEVも同様であることは前回述べた通りである。
BEV(外部充電式EV)の普及時には、e-fuel普及時よりも多くの再生可能エネルギーが必要になる。
EV普及で電力需要が増加する
BEVが乗用車として100%普及時には、全普及台数の1/7が同時に充電するケース(週に一度の充電を想定)でも、必要な電力は総供給能力の約1/3が必要であり、全普及台数が同時に充電するケースでは、電力総供給能力の2倍を超過すると試算される。
つまり、BEV普及時には、更なる電力供給能力の設備増強が必要であり、その全てを再生可能エネルギーで賄おうとした場合、政府の2050年エネルギーミックスにおける再エネ目標値(50~60%)を大きく超えることが予想される。
また、発電設備増強に加えて、ユーザーがEVを充電するタイミングの制限等の措置が必要になると考えられる。
欧州でも見直され始めているCO2排出評価
欧州でも、現在のCO2排出評価方法であるTank-to-wheel(自動車の燃料タンクからタイヤを駆動するまで)ではなく、2025年以降Well-to-wheel(油田からタイヤを駆動するまで)で評価する方向で議論がなされている。〈*4〉
BEVは、Tank-to-wheelで考えれば確かにCO2排出がゼロではあるが、Well-to-wheelで考えれば非化石エネルギーによる発電でない限り、電気を作る過程でCO2が排出されていることは、世界でも再評価されつつある。〈*5〉
先述した通り、石炭火力発電比率の高い日本においては、HEV(ハイブリッド車)などエンジン搭載車の走行中のCO2排出量を減らすe-fuelはますます注目されると考えられる。
看過できないバッテリー廃棄問題
さらにBEVの需要拡大により、このままでは廃棄バッテリーが今後爆発的に増加する。国際エネルギー機関(IEA)は今後10年間でEVの台数が800%増加すると予測しているが、その1台1台に数千のバッテリーセルが搭載されており、電子ごみ(e-waste)も将来確実に爆発的な数が発生することになる。〈*6〉北米最大級のリチウムイオン電池リサイクル会社であるLi-Cycle社は、世界のリチウムイオン電池の廃棄量は、2020年までに累計で170万トンに達したと推定され、これが2030年には1,500万トンまで膨れ上がると試算している。〈*7〉
リチウムイオン電池の中でも、最も高価な原料の一つがコバルトである。
コスト低下やサプライチェーン上の課題(世界で供給されるコバルトの約60%がコンゴ共和国産だが、人権問題・環境問題が指摘されている)を主因とし、コバルトの分量を減らすのがトレンドとなっている。
これにより、リサイクルへのインセンティブも働きにくくなっていることは皮肉なことである。〈*8〉逆にこれを市場成長の機会と見て、リチウムイオン電池リサイクル市場には、欧米中心にスタートアップが参入し技術開発を行っているものの、依然としてコストが高く、現在の技術では難しいのが実情だ。〈*9〉
ガソリン車は将来なくなるのか
さて、ガソリン車は将来なくなるのであろうか。
石油は連産品であり、原油から精製させる過程でガソリン、ナフサ、軽油、重油などが同時に生産される。
日本のガソリン需要は、原油産製品の約3割で、残りの約7割は別用途で使用されており、当然ガソリンだけをなくすことはできない。
新興国では石油需要はしばらく拡大する
海外に目を向けると、北米や欧州では今後ガソリン需要は下降トレンドとなる見込みではあるものの、アフリカ、中東、インド、東南アジアといった途上国/新興国エリアは、少なくとも2040年まで上昇トレンドが継続する見込みだ。
日本のガソリン需給バランスは、2025年には供給過多に転じるとみられている。
インドネシアやマレーシアなど、需要が増加する東南アジア向けへのガソリン輸出も、選択肢の一つとして見込まれている。(そのときは、韓国やシンガポールなどの国と価格競争になる。)
さらに、いわゆるガソリン税(揮発油税)は、年間2兆円を超えており、年度歳入の約4%と大きな財源になっている。〈*1〉EV増加により、今後税収は減少見込みの為、2019年の税制改正大綱では、車両の走行距離に応じて課税する「走行距離課税」の考え方も視野に入れて議論していくことが明記されたが、スケジュールは不透明な状況である。〈*2〉
新技術としての「e-fuel」への期待
e-fuelは現在の開発状況としては、大量生産・普及が2030年に間に合うかどうか微妙なところとみられる。〈*10〉だがe-fuelにコスト競争力が生まれれば、HEVの販売比率に大きな影響を及ぼすものと考えられる。既存産業も守りながら、カーボンニュートラルを実現する日本の切り札となるか、日本メーカーの開発が待たれるところである。
〈注釈〉
*1:財務省「自動車関係諸税・エネルギー関係諸税に関する資料」
*2:日本経済新聞「車への課税、走った距離で 与党税制大綱に検討明記」
*3:日経XTECH「炭素中立エンジンの切り札へ 合成燃料e-fuel、日系3社が注力」
*4・5:日経XTECH「2030年“LCA規制”の衝撃 対EVでエンジンが逆襲」
*6:IEA「Global EV Outlook 2020」
*7:AMP「電気自動車普及のカギとなる、「廃棄バッテリー」リサイクル アマゾン、パナソニックらが取り組む「環境にいい」車づくり」
*8:JETRO「中国のEVシフトに立ちはだかるコバルト供給問題」
*9:AMP「電気自動車普及のカギとなる、「廃棄バッテリー」リサイクル アマゾン、パナソニックらが取り組む「環境にいい」車づくり」
*10:日経XTECH「トヨタ・日産・ホンダが本腰、炭素中立エンジンに新燃料e-fuel」
e-fuelとは? そのメリットとデメリット、リスクを解説
2021年5月8日
CO2削減に効果的なe-fuelが注目されています。日本より欧米のほうが開発が早い。
特に力を入れているのがアウディやポルシェ、ボッシュで、モータースポーツ界隈でも導入が検討されているようです。
また、トラックや船での長距離輸送や電化が難しい航空業界(後述)も、e-fuelに期待を寄せています。
e-fuelは合成燃料です。
大気から回収したCO2を利用して、水から得た水素を電気分解して合成するものや、バイオマスから合成するものがあります。
現在開発されているものはメタノール合成をベースとしたものです。
化石燃料よりも粒子状物質や窒素酸化物の生成が少ないというメリットがありますが、生成プロセスで再生可能エネルギーを用いないとカーボンオフセットを実現できません。
今回はe-fuelのメリットとデメリット、そしてリスクについて解説します。
e-fuelのメリット:
CO2等の排出量が少ない
ポルシェによるとe-fuelが排出するCO2は非常に少なく、ガソリン比で85%ものCO2を削減できるのだそうです。
EVであってもバッテリーの製造過程でCO2が発生するため、いわゆるWell to Wheel(油田から車輪を駆動するまで)の観点からすると、EVとe-fuelのCO2排出量は同等となります。
また、粒子状物質やNOx(窒素酸化物)の排出量が少ないのも、e-fuelのメリットです。
これはガソリンと比較して含まれている成分が少ないためです。
エネルギー密度が高い
e-fuelはガソリンと同等のエネルギー密度を持っています。
そのため長距離輸送の分野や、レーシングカーやスポーツカーなどのカーボンニュートラルを実現できるでしょう。
トラックや航空機を電動化した際に問題となるのは、過大なバッテリーの重量です。
エアバス社によると、同社のA320を電動化した場合、たとえバッテリーのエネルギー密度が現在の30倍あったとしても、ジェットエンジンのA320比で1/5の距離しか飛行できず、ペイロード(有料荷重)は半分になってしまうのだそうです。
長距離輸送トラックの場合も同様で、ペイロードは1/3になってしまいます。
航続距離を伸ばそうとバッテリーを増やすと重くなり、重いから航続距離が伸びないという悪循環が、EVの弱点と言えます。
充電時間の長さも問題です。
「急速充電器を用いれば30分で○○○km分の電力を~」という記述は、最近の新型EVのプレスリリースに必ず記載されていますが、ガソリン車の給油に30分もかからないわけですから、その点では競争力が全くありません。
輸送業は時間との勝負ですから、EV化により輸送時間が伸びれば、そのコストは消費者に跳ね返ってきます。
e-fuelはガソリンと同様に給油できるわけですから、EVよりも輸送業向きです。
既存のインフラを活用できる
モータリゼーションが起こった国では、ガソリンスタンドで給油して自動車やバイクを走らせるのが当たり前になっています。
物資の輸送インフラもそれに合わせて構築されているので、自家用車やタクシー、トラックなどの輸送用機器と、それを支えるインフラの全てを電化するには、莫大な投資が必要です。
一方、e-fuelはガソリンの同等物ですから、既存のインフラを活用できます。
よって莫大な投資は必要ありませんし、導入もスムーズに進むはずです。
レアアースを必要としない
バッテリーの製造に必要なレアアース(希土類)は、供給に不安を抱えています。
特にコバルトは石油よりも先に枯渇するのではないかと危惧されているほどです。
e-fuelはレアアースを必要としないので、EVのリスクヘッジとして機能するでしょう。
e-fuelのデメリット:
コストの高さ
e-fuelは合成に手間がかかっている分だけ高価です。
イギリスでは、e-fuelのディーゼル燃料がリッターあたり£4(約608円)で販売されています。
これほど高くては普及する見込みがありません。
e-fuelは再生可能エネルギーを利用して合成することでカーボンオフセットを実現しているので、大量生産するには風力発電や太陽光発電の発電量を増やす必要があります。
逆に言うと、それらの発電コストを圧縮できなければ、e-fuelもコスト高なままです。
e-fuelの合成プロセスにおける効率化ももちろん必要でしょう。
CO2をどう調達するか
製鉄や火力発電などのプラントから排出されたCO2を回収してe-fuelを合成するというのが当初想定されていましたが、それらの産業分野でもCO2削減が進んでいるため、現在ではDAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)というCO2を大気中から直接回収する技術が用いられています。
DACがどの程度のコストを生み出すかは不明ですが、コストを減らすことにはならないはずです。
メタノールの悪影響
e-fuelはガソリンの同等品ですが、メタノールは金属(アルミやマグネシウムなど)を腐食させます。
また、ゴム部品などに対しても攻撃性があるようです。
現在のe-fuelはメタノールベースで合成しているので、自動車部品に対して何らかの悪影響を及ぼす可能性は否定できません。
ガソリン車をそのままe-fuel車に転換するのは難しいでしょう。
e-fuelのリスク:
最後にe-fuelのリスクについて。
e-fuelのカーボンオフセットには再生可能エネルギーが欠かせないという話は上述のとおりですが、再生可能エネルギーの賦存量は石油と同様に偏在しているため、地政学的リスクが存在します。
風力や太陽光が豊富なのは主にアフリカですが、政情不安な地域が多いです。
ポルシェはe-fuelのプラントをチリに建設しましたが、そのチリでもデモや暴動が頻発しています。
エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料「合成燃料」とは
2021-07-08
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、2020年末に策定された「グリーン成長戦略」(サイト内リンクを開く「カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?」参照)のもと、あらゆる分野・産業でさまざまなチャレンジがおこなわれています。グリーン成長戦略については、2021年6月よりさらなる具体化がおこなわれているところですが(経済産業省のページを別ウィンドウで開く「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました」参照)、そのひとつに位置づけられるのが「合成燃料」の開発です。合成燃料とはどんなものか、どのような分野での活用が期待できるのか、研究が進む合成燃料について解説します。
CO2とH2から製造される「合成燃料」
合成燃料は、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を合成して製造される燃料です。複数の炭化水素化合物の集合体で、 “人工的な原油”とも言われています。
原料となるCO2は、発電所や工場などから排出されたCO2を利用します。将来的には、大気中のCO2を直接分離・回収する「DAC技術」を使って、直接回収されたCO2を再利用することが想定されています。CO2を資源として利用する「カーボンリサイクル」(サイト内リンクを開く「未来ではCO2が役に立つ?!『カーボンリサイクル』でCO2を資源に」参照)に貢献することになるため、「脱炭素燃料」とみなすことができると考えられています。
もうひとつの原料である水素は、製造過程でCO2が排出されることがない再生可能エネルギー(再エネ)などでつくった電力エネルギーを使って、水から水素をつくる「水電解」をおこなうことで調達する方法が基本となります。現在主要な水素製造方法は、石油や石炭などの化石燃料から水蒸気を使って水素を製造する方法ですが、この方法と組み合わせると、①化石燃料から水素をつくる ②その製造過程で発生したCO2を分離・貯留する ③その後別の回収したCO2と合成する…ということとなり、非効率な製造プロセスになるためです。
なお、再エネ由来の水素を用いた合成燃料は「e-fuel」とも呼ばれています。
既存設備が活用できるという大きなメリット
液体の合成燃料には、化石燃料を由来とするガソリンや軽油などの液体燃料と同じく「エネルギー密度が高い」という特徴があります。つまり、少ないエネルギー資源量でも多くのエネルギーに変換することができるということです。これにはどんなメリットがあるのでしょうか?
いま、乗用車は電動化や水素化が進んでいますが、動力源を電気・水素エネルギーに転換させることがむずかしいモビリティや製品もあります。それは、現在使用されているガソリンなどの液体燃料と電気・水素エネルギーでは、エネルギー密度に大きな差があるためです。
たとえば大型車やジェット機の場合、電動化・水素化すると、液体燃料と同じ距離を移動するには液体燃料よりも大きな容量の電池や水素エネルギーが必要となってしまいます。こうしたモビリティや製品があるかぎり、液体燃料は存在しつづけると考えられています。
エネルギー密度の比較
このようなケースで、化石燃料由来の液体燃料を液体合成燃料に置き換えることができれば、エネルギー密度をキープしつつCO2の排出量をおさえることができます。
また合成燃料の大きな特徴として、従来の「内燃機関」(たとえばガソリンを使うためのエンジンなど)や、すでに存在している燃料インフラを活用できる点があります。水素エネルギーなどのほかの燃料では新たな機器やインフラを整備しなければならないのにくらべて、導入コストをおさえることができ、市場への導入がよりスムーズになると考えられます。
これまでの化石燃料と変わらない使い勝手の合成燃料は、エネルギーのレジリエンス(強靭性)やセキュリティの面でもメリットがあります。積雪により停電が発生した地域への燃料配送、高速道路で立ち往生した自動車への給油もでき、災害対応機能を持った全国のサービスステーションなどでは既存のタンクを活用した備蓄も可能です。また、国内で工業的に大量生産できること、常温常圧で液体であるため長期備蓄が可能であることなど、さまざまな優位性があります。
さまざまな分野での合成燃料の活用方法
①自動車
「グリーン成長戦略」では、自動車の電動化を推し進め、2035年までに乗用車の新車販売で電動車100%を目指すことになっています。けれども電動車の普及には、新たな車両や蓄電池の開発、電動車に対応したインフラの整備など、さまざまな課題があります。
2017年に発表された国際エネルギー機関(IEA)の見通しによると、世界的な電動化の流れの中でもエンジン車との共存は続くと見込まれています。2030年時点でガソリン車やハイブリッド車などのエンジン搭載車は91%残っており、2040年時点においても乗用車販売の84%をエンジン搭載車が占めると予想されています。カーボンニュートラルを実現するためには、これらのエンジン搭載車に供給する脱炭素燃料が重要となります。
そのための選択肢として、バイオ燃料と並んで注目を集めているのが合成燃料です。特に、電動化のハードルが高い商用車などについては、合成燃料を代替燃料として利用することで脱炭素化をはかることができると考えられます。今後は合成燃料の開発にくわえて、内燃機関の技術開発や、現在のガソリン・軽油に代わる合成燃料の国際規格についても検討していく必要があります。
②航空機・船舶
航空機・船舶の分野では、国際機関の要請によりCO2の削減目標が定められています。そのため、航空機についてはバイオジェット燃料・合成燃料、船舶については水素・アンモニアなどの代替燃料の技術開発が進められています。
航空機では国際民間航空機関(ICAO)が、2021年以降の国際航空に関してCO2排出量を増加させないという目標を採択しているため、その達成に向けてバイオジェット燃料に加えて合成燃料の活用が期待されています。すでにバイオジェット燃料は商用化されていますが、今後はその原料が不足することも懸念されています。一方、合成燃料はCO2と水素から工業的に大量生産でき、持続可能な航空燃料となる可能性があります。
③石油精製業など
既存の燃料インフラや内燃機関の活用が可能な合成燃料は、導入コストをおさえられるなど産業界にとっても大きなメリットがあります。特に石油精製業では、国内の石油需要の減少で設備能力の削減が求められる一方、余剰となったタンク、土地、人材などの資源をどうするかという課題があります。合成燃料を導入すれば、既存インフラを活用しながら新規事業に取り組むことができます。
④そのほか
灯油・LPガス・都市ガスを利用した暖房器具は、エアコンとくらべてすぐに暖まる、外気温に影響されにくいなどの特徴があり、とりわけ寒冷地域では引き続き需要が残る可能性があります。こうした場合にも、灯油などの代替燃料として合成燃料を利用できます。また、産業用ボイラーの燃料としての活用も考えられます。
合成燃料の残る課題とこれから
現在、合成燃料がかかえている課題のひとつは、製造技術の確立です。今の製造技術には製造効率の問題があり、効率の向上が課題となっています。革新的な製造技術としてさまざまな方法が研究開発の段階にあり、今後の実用化が期待されています。
合成燃料のもうひとつの課題はコストです。現状では化石燃料よりも製造コストが高く、国内の水素製造コストや輸送コストを考えると、海外で製造するケースがもっともコストをおさえることができると見込まれています。しかし、合成燃料のコストは、「脱炭素燃料である」という環境価値をふまえて考えるべきものです。既存の燃料と単純な比較をおこなうことは適切ではなく、将来性のある代替燃料として研究開発を続ける必要があります。
合成燃料の技術開発・実証は欧米を中心に急速に広がっており、石油会社・自動車メーカー・ベンチャー企業などによるプロジェクトが数多くたちあがっています。日本国内でも積極的な姿勢が重要となっています。サイエンスの観点からの技術開発にくわえ、エンジニアリングの観点から商用化のための高効率で大規模な製造技術・体制の確立を両輪として、産学官で技術開発に取り組んでいく必要があります。
今後10年間で集中的に技術開発・実証をおこない、2030年までに高効率かつ大規模な製造技術を確立、2030年代に導入拡大・コスト低減をおこなって、2040年までに自立的な商用化を目指すという計画が立てられています。
脱炭素燃料としての国際的評価の確立、海外で合成燃料が製造された際のCO2削減分の捉え方など、制度面でも議論が必要です。課題がまだ残る合成燃料ですが、環境価値だけでなく、国内での大量生産や長期備蓄が可能なことからエネルギーセキュリティの向上にも役立ちます。今後の研究開発の進展が期待されます。
e-fuelは内燃機関を救えるか? ポルシェやBMWの本音
カーボンゼロカー大競争 2021年7月21日
古野 志健男 SOKEN
ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)や米Tesla(テスラ)を中心に、電気自動車(BEV)の開発が加速している。その裏で注目を集めているのが「グリーン水素」「グリーンアンモニア」「合成燃料(e-fuel)」「バイオ燃料」などのカーボンニュートラル(CN)燃料である。
同燃料の商用化を目指し、欧州を中心に世界中で研究開発プロジェクトが乱立し、投資が拡大している。BEVだけでは、2050年に運輸部門のカーボンニュートラルを達成することは不可能とみられているからだ。
CN燃料が普及すれば、既存のエンジン(内燃機関)はカーボンニュートラルなパワートレーンの1つとして生き残る。ガソリン相当のCN液体燃料40Lのエネルギー密度は、米Tesla(テスラ)「モデル3」の約60倍に達する。移動体のエネルギーとして、これほど利便性の高いものはない。
地球環境産業技術研究機構(RITE)が21年5月、経済産業省の「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」で示したように、50年に日本でカーボンニュートラルを実現するには、水素、アンモニア、e-fuel、バイオ燃料などの国内生産に加え相当量の輸入と、国内外でのCCS(二酸化炭素(CO2)の回収・貯留)は避けられない。
ただし、CN燃料に対しては生産量やコストが商業的に成立する水準に達するのかという疑念の声がある。どんな課題があり、解決の見通しはあるのか。主要なCN燃料である水素、アンモニア、e-fuel、バイオ燃料のうち、既存のエンジンの行方を大きく左右するのはe-fuelとバイオ燃料である。本稿では最近注目を集めるe-fuelの最新動向を解説する(バイオ燃料は次回)。
ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)や米Tesla(テスラ)を中心に、電気自動車(BEV)の開発が加速している。その裏で注目を集めているのが「グリーン水素」「グリーンアンモニア」「合成燃料(e-fuel)」「バイオ燃料」などのカーボンニュートラル(CN)燃料である。
あなたのクルマ、乗り続けられる? 話題の液体燃料「eフューエル」とは
7/14(水) 5:45配信
AUTOCAR JAPAN
電動化=エンジン車排斥の時代に
日産リーフ
text:Kenichi Suzuki(鈴木ケンイチ)
editor:Taro Ueno(上野太朗)
【写真】燃料電池に水素に電気【ガソリン以外で走るトヨタのクルマ3選】
世の中は脱炭素時代に走り出している。
日本政府は、2050年のカーボンニュートラル(CO2排出量の収支が実質ゼロ)達成を宣言しており、2035年には国内販売される新車はすべて電動化されるという。
つまり、14年後に新車販売されているクルマは、ハイブリッド、もしくはEV、そして水素で走るFCVしかなくなる公算が強くなった。
そんな2035年が到来すれば、政策として古いエンジン車を排斥しようという動きが出てくるだろう。
今でさえ、車歴が13年を超えると自動車税が増額される。これも古いクルマを手放し、新車への買い替えを進めるのが狙いだ。
カーボンニュートラルの世を実現するには、CO2を排出するエンジン車は障害になるため、政策としてクルマの所持や燃料にかかる税金が高くなる可能性は高い。
もしも、今、あなたの愛車がハイブリッドではなく、そのクルマ(最終ガソリン車)を乗り続けた場合、14年後の2035年には辛い立場に陥るのは間違いないはずだ。
「日本がカーボンニュートラルを目指す」というのは、お国や大きな会社だけの問題ではなく、日本に住むすべての人々の生活も、これまでとは違うことが求められることなのだ。
「カーボンニュートラル燃料」という別シナリオ
CO2とH2から製造される「合成燃料」
しかし、エンジン車が存続する未来へのシナリオも存在する。
それが「カーボンニュートラル燃料」だ。「カーボンニュートラル燃料車」だ。
文字どおり、カーボンニュートラルな燃料の活用だ。それがバイオマス(生物体)を利用してできた「バイオ燃料」であり、もう1つが電気分解された水素を使う「e-Fuel(eフューエル)」だ。
バイオ燃料は、トウモロコシや藻類などの植物由来のアルコール燃料やディーゼルエンジン用の燃料の開発が古くからおこなわれてきた。
マツダは、昨年2020年8月に「次世代バイオディーゼル燃料のバリューチェーンを構築」の取り組みを発表している。
そして、もう1つの「eフューエル」
再エネによる電気分解でできた水素と空気中の二酸化炭素を原料にするため、カーボンフリーの燃料となる。
再生エネルギーで水を電気分解して水素を作ることを指して、Electricのeが使われている。また、「合成燃料」と呼ばれることもある。
また、メタンガスなどの気体だけでなく、メタノールやガソリンや軽油のような炭化水素液体燃料にすることもできる。
そして、燃焼する液体燃料ということは、エンジンの燃料にも使えることを意味する。既存の内燃機関のエンジン車も改良することで継続使用できる可能性があるのだ。
ガソリンスタンドのような、既存の液体燃料のインフラ利用も期待ができるのもメリットとなる。
豊田会長のコメントから注目が高まる
トヨタ・ミライ
古くからあるバイオ燃料に対して、「eフューエル」は、ごく最近になって注目度を高めた。
そのきっかけの1つが、2021年4月の日本自動車工業会(自工会)の豊田章男会長の定例会見だろう。
その会見で豊田会長から「今、エネルギー業界では水素から作る『eフューエル』やバイオ燃料など、『カーボンニュートラル燃料』という技術革新に取り組まれております。日本の自動車産業がもつ高効率エンジンとモーターの複合技術に、この新しい燃料を組み合わせることができれば大幅なCO2低減というまったく新しい世界が見えてまいります」とのコメントが飛び出した。
また、トヨタのトヨタイムズHP「トヨタ春交渉2021 番外編 労使協で語られた『カーボンニュートラル』の本質」にも「水素を使って、『CO2フリーの化石燃料』をつくろうという技術が、動き始めているのです」
「AIやCASEに磨きをかけて、こうした新しい技術をウーブン・シティで実証実験をおこなうことができます。新しい技術と経済合理性をどう実現していくか、そこがわれわれの技術開発の見せどころだと思います」とのトヨタのカーボンニュートラルを含めた技術部門の特命担当を務める寺師エグゼクティブフェローの言葉も公開されている。
FCVの「ミライ」を発売するトヨタだが、燃料電池とはまた別の水素の利用方法となる「eフューエル」にも注目しているのだ。
燃料電池という、1つの道に賭けるのではなく、可能な限り保険も用意する。体力のある大企業トヨタだからこそできる、全方位的な戦略だ。
10年後に技術確立、20年後にビジネスに
合成燃料におけるCO2の再利用のイメージ
太陽光や風力などの再生可能エネルギーで作った水素と空気中の二酸化炭素を合成させてできる「eフューエル」
言ってしまえば、タダで、いくらでもできて、作るほどに空気中の二酸化炭素が減るという、なんとも都合の良いことばかりの燃料だ。
もちろん、合成や運搬などにエネルギーが必要なので、厳密にはタダではないし、CO2ゼロは難しいけれど、それでも、地面から掘り出した石油を使うよりは環境によい。
そんな「eフューエル」合成燃料は、いつから使えるようになるのか?
政府の発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」には、「合成燃料について、2050年に、ガソリン価格以下のコストが実現できるよう、既存技術の高効率化/低コスト化に加え、革新的新規技術/プロセスの開発を実施するとともに、商用化に向けた一貫製造プロセス確立のための応用研究を実施する」とある。
さらに経済産業省資源エネルギー庁のHPには「今後10年間で集中的に技術開発/実証をおこない、2030年までに高効率かつ大規模な製造技術を確立、2030年代に導入拡大/コスト低減をおこなって、2040年までに自立的な商用化を目指すという計画が立てられています」とのロードマップが提示されている。
うまくいけば10年後には技術が完成して販売をスタート。
ただし、価格はまだ高いため補助金などで補填、2040年には補助金なしのビジネスベースに乗り、2050年にはガソリンより安くなるという計画だ。
ユーザーに負担が押し付けられない形で
マツダが2020年8月に発表した「次世代バイオディーゼル燃料運用車両」イメージ
エンジン車に乗り続けたいという人間にとっては、この計画が順当に進めば、安価なエンジン車に乗り続けることも可能となる。
現在のガソリン車と同様の使い勝手のまま、カーボンニュートラルの時代に適合できるのだ。
課題は、いかに大量に、いかに安価に「eフューエル」を量産するかにある。
水素と二酸化炭素をいかに効率よく反応させるかも重要だが、原料となる水素と二酸化炭素をCO2フリーで手に入れることも大きなハードルだ。
二酸化炭素をどこから手に入れるかによっても、環境負荷の大きさも変わってくる。うまくいかなければ、エンジン車消滅の危機となる。
とはいえ、ライバルとなるFCVやEVにも、それぞれ普及のための高いハードルが存在する。
FCVとEVが、うまく低コスト化などの計画を進めないと、ユーザーが高い代償(高額な車両費やランニングコスト)を負担することになる。
そういう意味では「eフューエル」やバイオ燃料などの選択肢が増えることは、エンジン車に乗り続けたいというドライバーの負担増というバッドシナリオ回避の可能性を高めてくれることになる。
正直、最も重要なことは、ユーザーの負担増なしに、カーボンニュートラル時代にクルマを利用できること。
負担が少なければ、FCVであろうともEVであろうとも、「eフューエル」でもバイオ燃料でも、どれでもよいのだ。
どちらにせよ、答えが出るのは10年から20年ほども先の話。技術開発と制度とインフラの整備がスムーズに進むことを祈りたい。
自民党 経産部会長 佐藤ゆかり氏に直撃 「e-fuel」は経済戦略の決定打になるや? ならざるや??
2021年6月30日 / コラム
2050年までにカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す我が国において、自動車産業にもさまざまな動きが見られるが、ここにきて電動化「以外」のアプローチが注目されるようになってきた。
そのひとつがトヨタ自動車の水素エンジン車の開発だが、さる2021年6月18日に閣議決定された政府の「成長戦略フォローアップ」においてe-fuelが取り上げられ、具体的な商用化へのスキームについても言及されている。
そこには、
「CO₂と水素H₂を原料として製造される合成燃料(*e-fuelのこと)について、技術開発・実証を今後10 年で集中的に行うことで、2030 年までに高効率かつ大規模な製造技術を確立するとともに、2030 年代に導入拡大・コスト低減を行い、2040 年までに環境価値を踏まえつつ、自立商用化を目指す。(*編集補足/成長戦略フォローアップ案 カーボンリサイクルに係る産業項より)」
とある。菅義偉総理が今年の1月、国会で「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」と表明し、「カーボンニュートラル=電動化」というイメージが先行したが、成長戦略に掲げられるということはe-fuelの可能性を認めるもので、政府内でも様々な意見があることがうかがえる。
今回、政府に対してe-fuelの実用化推進の提言を行ってきた「カーボンリサイクル技術の推進及び需要創出のための議員連盟」の会長であり、自民党政務調査会 経済産業部会長、前環境副大臣でもある佐藤ゆかり衆議院議員に、e-fuelの未来と可能性について聞いてみた。
■「日本は出遅れているのではないか?」
ベストカー編集部 本郷仁(以下、本郷) 佐藤さんは今回e-fuelの国内実用化について、政府に強く提言なさったそうですが、e-fuelに注目される理由を教えてください。
佐藤ゆかり衆議院議員(以下、佐藤) 私は一昨年環境副大臣に就任し、地球温暖化政策を担当しました。その際に世界が本気でパリ協定(2020年以降の地球温暖化対策の枠組み)を推進するなか、日本の政策は出遅れているのではないか? と正直感じました。
国内では集中豪雨によって大規模被害が続出し、気候変動対策に真正面から向き合わなければならない事態と決意しました。そのなかで日本がカーボンニュートラルを実現し、世界でリーダーシップを取るにはどうすればいいか? について考えた結果、ひとつの選択肢としてe-fuelの可能性に注目しました。
佐藤ゆかり衆議院議員。前環境副大臣であり、自民党政務調査会 経済産業部会長にインタビューしました
本郷 「日本の自動車産業において、カーボンニュートラルの実現には電動化戦略以外ありえない」という意見もありますが、どうお考えでしょうか?
佐藤 電動化がひとつの有効な手段であることは間違いありません。その一方で自動車産業には約550万人が従事し製造から販売、修理工場、ガソリンスタンドまで大きなピラミッド構造が構築されています。電動化一辺倒になれば、その産業構造は失われざるをえません。また、もしも電動化だけが残されれば、電池生産に必要なコバルトやリチウムといったレアメタルの調達はどうするのか? という深刻な問題も起きます。
e-fuelは内燃機関をそのまま使うことでカーボンニュートラルにアプローチできる経済産業上のメリットがあります。既存の設備と人、そしてノウハウを使いながら、新たな燃料開発のために投資し、研究開発を推し進めるほうがマクロ経済全体の視点で見た場合、より効率的であり、理にかなっていると思います。
政府が2035年までに新車販売すべてを電動化すると発表した際、自工会会長の豊田章男さんが猛烈に反論されましたが、私は心からサポートしておりました。またトヨタの社長として、水素エンジン車を開発し、自らがレーシングカーを運転されたことは大きなニュースになりましたが、私はそれを誇らしく拝見しました。水素エンジン車もe-fuel同様、既存の内燃機関をほぼそのまま使えるという利点があります。
佐藤議員は、同じく内燃機関を使ってカーボンニュートラルを目指す、豊田章男社長がリーダーシップを取る水素エンジン車の挑戦を応援しているという
■e-fuelの実用化によって日本が世界をリードできる
本郷 e-fuelの開発を加速させるには何が重要とお考えでしょうか? また日本はこの分野で世界をリードできるとお考えでしょうか?
佐藤 これまでは自動車メーカーも石油メーカーもe-fuelに踏み込んでいいのか? 政府の動きを見ながら……というところはあったと思います。しかし、成長戦略フォローアップに明記されたことで、国もしっかりと対応し、研究開発のための支援策を用意する必要はあると思います。
一方で、自動車メーカーや石油メーカーには、政策的方向性を待つのではなく、みずからの業界で産業を創り、政策をリードするという気概で、もっと積極的に行動してほしいと思います。先ほどの豊田章男社長のチャレンジが物語るように、熱い思いが政治を動かすということもあります。
また世界を日本がリードできるかについては、おそらくe-fuelの開発は日本と欧州、特にドイツとの戦いになろうかと思います。アメリカはシェールガスがありますから、e-fuelへの急激な切り替えは難しい。従って、国家レベルでという話には少し時間がかかるであろうと思います。
一方、日本は技術力としては高いものがあると考えますが、いかに低コストで製造できるかがカギとなります。そのためには船舶や航空機といったCO²の排出が多く、電動化が難しいという理由からe-fuelの大口需要が見込める産業とタッグを組み、コストを下げることが重要と考えます。そうなれば自動車ユーザーもガソリンやディーゼルに代わる燃料として選択できるようになり、これを早く実現するこで日本はe-fuelで世界のリーダーシップをとれるはずです。
本郷 e-fuelはエネルギー密度が高く、アウディやポルシェが開発に積極的なようにe-fuelで内燃機関のスポーツカーが存続できるとしたら、クルマ好きには朗報です。
佐藤 ポルシェがe-fuelのニューモデルを公表したら、それこそビッグニュースでしょう。
■大阪万博がe-fuelをアピールする大きなチャンス
本郷 e-fuelは再生可能エネルギー等で水素を生成することが必要です。福島の浪江町でグリーン水素を製造していますが、まだグリーン水素はわずかしか流通していません。これから水素をどうやって作っていくべきか、お聞かせください。
2025年の大阪万博でe-fuelで動く「空飛ぶクルマ」のデモ走行ができたら、世界にインパクトを与えられるはずと青写真を明かしてくれた
佐藤 水素はカーボンニュートラルを実現するための心臓部となるものです。現在政府は輸送コストをかけて、わざわざオーストラリアから褐炭で製造した水素を輸入しようとしていますが、褐炭を燃やす段階でCO2は排出されます。このような水素をブルー水素と呼びますが、多少コストが高くても水を電気分解したり触媒により水素を製造するグリーン水素を作っていかなければ、水素の本質は変わらず、普及も進まないと思います。
2025年に私の地元でもある大阪で万博が開催されます。それまでには大阪周辺にもグリーン水素製造施設を整備し、グリーン水素とDAC(CO2を大気中から直接回収する技術)で回収したCO2の合成によるe-fuelを製造する展開ができればと思います。万博では単なる技術の展示に終わらず、これらの技術の連動により訪れるであろう未来社会の姿を実際に体験できるような展開が必要です。この意味で、e-fuelが、国交省が推進する空飛ぶタクシーなど、会場で使うさまざまな先進モビリティの燃料として使われ、来場者の皆さんに楽しんでいただけるようになればと考えております。
佐藤 水素はカーボンニュートラルを実現するための心臓部となるものです。現在政府は輸送コストをかけて、わざわざオーストラリアから褐炭で製造した水素を輸入しようとしていますが、褐炭を燃やす段階でCO2は排出されます。このような水素をブルー水素と呼びますが、多少コストが高くても水を電気分解したり触媒により水素を製造するグリーン水素を作っていかなければ、水素の本質は変わらず、普及も進まないと思います。
2025年に私の地元でもある大阪で万博が開催されます。それまでには大阪周辺にもグリーン水素製造施設を整備し、グリーン水素とDAC(CO2を大気中から直接回収する技術)で回収したCO2の合成によるe-fuelを製造する展開ができればと思います。万博では単なる技術の展示に終わらず、これらの技術の連動により訪れるであろう未来社会の姿を実際に体験できるような展開が必要です。この意味で、e-fuelが、国交省が推進する空飛ぶタクシーなど、会場で使うさまざまな先進モビリティの燃料として使われ、来場者の皆さんに楽しんでいただけるようになればと考えております。
本郷 それはすばらしいアイデアですね。e-fuelを大いにアピールできるし、ワクワクしますね。e-fuelの普及に向けた取り組みに自動車ファンは期待しております。ありがとうございました。
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佐藤ゆかり
東京都世田谷区出身、大阪11区選挙区の自由民主党 衆議院議員。経済学博士・自民党政務調査会 経済産業部会長。16年間の海外在住により堪能な英語で国益のため経済交渉に向かう新たな保守政治家。環境副大臣、総務副大臣、経産政務官等、中央大学大学院経済学客員教授等、歴任。